異色の時計マイスター、トーマス・プレッシャー


 
トリプル・アクシス・トゥールビヨン搭載モデルのお値段は福沢諭吉×5000枚也(撮影協力:トーマス氏本人)


日本のセイコーやシチズン、舶来のロレックスやオメガが大手として定着している一方、独立系と呼ばれる小規模メーカーが存在する。これは時計職人の経営する個人工房で、大手メーカーとは一線を画する個性豊かな創作活動を行っている。特に優秀なビルダーはジュネーブに本拠を置く独立時計師協会(Academie Horlogere Des Createurs Independants)、通称「アカデミー」のメンバーに迎えられ、これは世界広しといえども30人程度しか会員のいない少数精鋭。まさに最高峰の職人集団である。

もちろんアカデミーのメンバーといっても方向性はまちまちで、汎用ムーヴメントを交えて数万本単位を生産するフランク・ミューラーのようなビジネスマンもいれば、年間わずか10〜20本に全職人魂を傾注するフィリップ・デュフォーのような頑固一徹など、生き様もさまざまで面白い。その他にもフランクの師匠にして永久カレンダーの巨匠スヴェン・アンデルセン、ブレゲの復権に貢献したダニエル・ロート、複雑機構の申し子アントワーヌ・プレジウソなど、錚々(そうそう)たる面子が顔を揃えている。

その中でも前職がドイツ海軍という、これまた異色の経歴をもつ独立時計師がトーマス・プレッシャー氏。日本での知名度は皆無であるものの、驚異的な手腕でアカデミーに名を連ねるマイスターである。誠実かつ物静かな印象の好人物で、誰に対しても細やかで丁寧に接する姿が印象的。ドイツ人マイスターらしい、寡黙な人柄が滲み出ている。試作型のトゥールビヨンだけを参考出展していた数年前とは異なり、ここにきてようやく商業用のラインナップが固まったようだ。


 
 ドイツ人マイスターらしい誠実な人物。スイスのジュウ渓谷東部・ビール湖畔のトゥヴァンに工房を構える。


トーマス氏の代表作は複数軸のトゥールビヨン。その中でも3つの軸をもつトリプル・アクシス・トゥールビヨンのインパクトは圧巻で、時計の脱進機そのものが立体回転する(下記リンク先の動画を参照)。テンプやアンクルをコチコチと駆動させながら、まるで懐かしの地球ゴマのように回る様子は格別だ。このヴィジュアル的な魅力に加え、一般的なシングル軸では不可能な3次元対応まで実現。腕時計のさまざまな位置・アングル変化にも対応できる、数少ないトゥールビヨンのひとつといえるだろう。構想9年、製作期間約10ヵ月というのも納得だ。
トリプル・アクシス・トゥールビヨンの動画はこちら

また彫金工作を駆使した装飾時計にも自信を覗かせており、TENPUSVIVENDI(テンプスヴィヴェンディ)シリーズにおいてその真価を垣間見ることができる。細密にエングレーブされた鷲や鶴の翼が、レトログラード機構で羽ばたく仕組みとなっている。2つの翼の先端部が、それぞれに時間と分を指す寸法だ。時刻が確認しにくい時計ではあるものの、それでもあえて「アート」として身に付けるのが「粋」というもの。使い手を選ぶという部分は、マニアにはたまらない魅力であろう。機械的なギミックと高い芸術性の数々は、見る者を魅了してやまない。

気になるお値段はフライング・トゥールビヨン搭載モデルが日本円で3000万円から。写真上のトリプル・アクシス・トゥールビヨン搭載モデルでおよそ5000万円だそうだ。複数の時計を購入すると多少の「お勉強」が成されるものの、ここまでくると値引き云々を問題にする価格ではない。ダイヤ等を使用した宝飾品でなく、あくまでも純粋な腕時計の価格である点が素晴らしい。現時点で国内代理店がないため、まず店頭ではお目にかかれないのが残念。これから販路を開拓していただき、再び日本の土を踏んでほしい。僕は買えそうにないけれど…。
なんと日本語にも対応した公式サイトはこちら


これで0時0分。翼が駆動して時刻を表示。 TENPUSVIVENDIシリーズには和風テイストも。


裏側のエングレーブにも手抜かりなし! 本人から頂いたカタログ。かなりレアかも。

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