トニー・マカパイン万歳!インスト・ソロ作品を全プッシュ









EDGE OF INSANITY  (1986年)


今のトニーからすると、若気の至りであり青臭いアルバムです。そのキャリアの中でジャズ、ファンク、ブルース、ロック、メタルといった多彩なジャンルをきわめた天才も、デビュー当時はネオクラシカル系メタルに一辺倒。楽曲のバリエーションがイマイチ乏しく、ギターの音作りも淡白で、今の彼だったらこのような作風にはしないだろうな…というツッコミどころがてんこ盛りです。でも近年のトニーが絶対にやらなそうな作品だからこそ、今となっては貴重でオイシイ部分がてんこ盛り!ハイスピードチューンの「THE STRANGER」などは、その最たるものですよ。もうビュンビュンに飛ばすわ、ギンギンに弾くわで、長〜いキーボードソロもド派手に突き刺さる。挙句の果てにはお約束のギターフレーズが上から下へ、下から上へと、何度も何度も何度もリフレインするわけですから。もはや涙なくして聴けません。そもそも一発目の「WHEEL OF FORTUNE」からして、クラシカルなフレーズが初々しく飛び出してくる。テクニック至上主義だった当時のギターキッズ、それもイングヴェイに触発されたマニアを大喜びさせるのに、十分すぎる破壊力だったはずです。ライヴ風に味付けされた「QUARTER TO MIDNIGHT」にしても、お得意のフレーズとタッピングで本当にカッチョイイいいもんなぁ〜。逆に「AGRIONIA」「EMPIRE IN THE SKY」などはモタモタとしたハモりフレーズのおかげでトーンダウンしたのかと思いきや、中盤以降の展開がドラマチックで「オオ〜〜ッ!!」となる。トニーの作品は、このパターンが凄く多いんですよ。序盤で「あ〜つまらなそう…」と判断して曲をスキップすると、エラくもったいないことになるのでご注意を。

そんなネオクラ全開の作品にあって「THE WITCH AND THE PRIEST」はちょっと異色。ファンクやジャズの影響下にある、彼の90年代以降の作品に近いヴァイブがあるからです。そもそもデビュー当時の作品にネオクラ色が強いのは、レーベルを主宰するマイク・ヴァーニーの思惑によるもので、トニー自身はもっと色々なことがやりたかったのかなぁ…な〜んて、勘ぐってみたりして。もちろんトニーがネオクラを好きだったのは間違いなさそうで、それが証拠に「THE TAKER」では水を得た魚のように弾きまくっていますよ。チェンバロ風のシンセが合図となって始まる、中間部のフリーソロも聴き応え十分です。…で、その次はショパンのピアノ曲です。もちろん本人によるピアノ演奏です。ああ、トニーって、元々はピアニストなんですよね。たまたまギターに触ってみたら、いつの間にかスーパーギタリストになっていた。天は二物を与えず…なんて絶対にウソだなぁ〜。そんなボヤキ節が聞こえてきたところにタイトルチューンの「EDGE OF INSANITY」がやってくるわけですが、イントロからして地味なこと地味なこと。でも騙されちゃいけません。中盤以降に「これぞトニー!」なフレーズがバシッとやってくる。ここまでくると、もはや確信犯の域ですね。そうかと思えば、続く「RAVEN」では一転してキャッチーなナンバーに早変わり。期待通りのメロディーと疾走プレイが存分に楽しめるわけです。このあたりのメリハリのつけ方は流石ですよね。ラストの「NO PLACE IN TIME」にしても、今度はギターを巧みに歌わせて、じっくりと聴かせる展開にもっていくわけですから。ネオクラという制約がある中でも、最大限に起伏をつけようと苦慮している。そんなアーティストとしての良心が貫かれているという点では、若かりし頃の作品とはいえやっぱり凄いのです。









MAXIMUM SECURITY  (1987年)


初めてトニー・マカパインを聴くなら、絶対にこの1枚。異論は認めません。その独断と偏見による根拠は三つ。まず第一に、自慢のクラシカルな速弾きプレイが、圧倒的な密度で網羅されていること。第二に、彼の純然たるネオクラ作品の、最後のアルバムであること。第三に、ファンに大人気の楽曲がズラリと並んでいること。もしトニーのファンに「いちばん好きな曲は?」と尋ねたら、次のような回答が得られるかもしれません・・・・・・・・・・・・トニーでいちばん好きな曲?そりゃ「TEARS OF SAHARA」だよ。あの泣きのギターがもうたまらん!ゲストのジョージ(リンチ)もいい味を出しているし、トニーのスウィープもこれまた泣きまくってるしなぁ〜。いつ聴いてもグッとくるね。泣きのギターインストでは、80年代の最高傑作のひとつじゃないかな・・・・・・・・・・・・でもなぁ、バカテクで弾きまくりの「HUNDREDS OF THOUSANDS」もスゴいんだよ。初めて聴いたときはマジでブッ飛んだよ。あの正確さとスピードはヤバイ。つーか、いま聴いてもシャレにならない。速さでイングヴェイを完全に超えたと確信したね。メチャクチャ気合いが入りまくってるもんなぁ・・・・・・・・・・・・と。おそらくこの2曲がワンツーフィニッシュを飾ると思います。あとはジェフ・ワトソンとのユニゾンプレイが炸裂する「THE KING'S CUP」が食い込んでくるかもしれません。曲自体が凄くキャッチーな上に、2分08秒あたりから右トラックで展開するジェフの8フィンガーズ・タッピングがもうキレキレ!そこにトニーの速弾きが間髪入れずに滑り込んでくるのだから、もはや悶絶するしかないでしょう。さらに「THE VISION」の格好よさときたらもう…。ブリッジミュートでガツンガツンとくるアルペジオと、お約束のスウィープ・ピッキングの雨アラレは反則ですって。中盤のソロに至ってはなんと2部構成になっており、これがもうドラマチックなんてもんじゃない。そんな曲がすべて収録されたアルバムですよ。捨て曲なしの名曲揃い。トニーの作品における、マイケル・ジャクソンのスリラーみたいなもの。アルバムの大半がシングルカット曲…みたいなノリのクオリティです。

もちろん他の曲もキレ味が抜群。まずオープニングの「AUTUM LORDS」にひと工夫アリ。ジワジワと盛り上げていく曲構成で、起承転結の「起」の役割を見事に果たしている。前作の出だしがやや唐突気味だったことに比べると、今回はアルバム全体の流れがキチンと考えられていますね。「HUNDREDS〜」「TEARS〜」になだれ込む展開は絶妙ですもん。その後の「KEY TO THE CITY」などは「地味な曲だな〜」と思わせておいて、中間部がメチャクチャ格好いい。そうかと思えば「THE TIME AND THE TEST」は序盤からスッ飛んでますからね〜。期待通りの速弾きがポンポンポン〜とテンポよく大暴れして、わずか2分39秒で終了。この軽快さが爽快です。一聴して気に入ると思うなぁ〜。でもでも、聴き込むほどに味わい深い「SACRED WONDER」も捨てがたい。もう完全にギターが歌ってる。一体全体、どうやったらこんなフィーリングが出せるんですかね?僕のような凡人には到底、真似できませんよ。リズミカルな曲調の中に、思わずホロリとくるフレーズが最高に格好いいもんなぁ〜!さらに終盤の「DREAMSTATE」の幻想的な雰囲気が、何ともいえずグッとくるんです。シンセの使い方なんて、まさに絵に描いたような1980年代スタイルそのもの。ノスタルジーなサウンドに郷愁を誘われつつも、爽やかな風が駆け抜けていくかのような曲です。その余韻がしっとりと残る中で、ラストナンバーの「PORCELAIN DOLL」が涙モノ。難解なフレーズがあるわけでも、高速プレイが炸裂するわけでもありませんが、エモーショナルな泣きのギターが素晴らしい。タッピングハーモニクスとサステインを効かせるところなんて、鳥肌モノですよ。名盤の最終章を飾るのに、ここまで劇的な締め方が他にあるだろうか?やっぱりいつ聴いても素晴らしいですよ、この作品は。









FREEDOM TO FLY  (1992年)

 

トニー・マカパインにとって一世一代のターニングポイントとなった、最大の問題作。初期2作品でみせたクラシカルなアプローチは鳴りを潜め、まさかまさかのジャズ・フュージョン路線に方向転換。脱・ネオクラの予兆はMACALPINE名義で発表された歌モノ作品「EYES OF THE WORLD」に散見されたものの、ネオクラを期待して疑わなかったフリークにとってはまさに寝耳に水。トニー本人がどこまで想定していたかはわかりませんが、残念ながら多くのファンを失う要因となってしまった作品です。しかしその後のマルチなトニーに惹かれる僕にとっては、本作における路線変更こそが歓迎すべき英断。多大なリスクを冒しながらも自らの音楽性を素直に、そして貪欲に追求していく道を選んだ、トニーの勇気ある決断に拍手・拍手です。ネオクラ・フリークを失望の淵へと追いやったであろうオープニングナンバー「ICE PRINCESS」から、これまでのアルバムにない陽気でカラッとしたフュージョン路線を展開。1曲目からギンギンの速弾きチューンを期待していた方は、その曲調と音数の少なさに茫然自失。我が耳を疑ったことでしょう。本作の中ではスピードチューンに属する「BOX OFFICE POISON」にしても、前作までの疾走曲とは明らかに毛並みが違いますね。やみくもにガンガン弾くのではなく、あくまでもリズムプレイを主体に構成している。小気味よいグルーブの中に、ピアノソロがキラリと光るアイデアは流石の一言。ただ速いだけのギタリストとの差別化が、徹底的に図られています。ギターサウンド自体も大きく様変わりしており、コンプレッサーでアタックを減らしたかのような丸みのある音色へと変貌を遂げました。

そんな本作の中でもキラーチューンにあたるのが、なんといっても「STREAM DREAM」でしょう。ロック寄りのフュージョンが好きな方にとっては、まぎれもなくド真ん中のストライク。高中正義で育った世代の方や、春畑道哉のソロ作品が趣味の人には「こりゃ〜タマらん」な要素が満載ですよ。ギターの音数やサウンドはまるで違いますが、カシオペアの「MINT JAMS」あたりの時代の楽曲にフィーリングが近い。心地よい疾走感もあるので、ドライブがてらに聴きたい1曲になることはまず間違いありません。それに加えて、なんといっても”歌うギター”が堪能できる曲が粒ぞろいなんですよ。「SALVATION」「DISCIPLINES OF FEAR」はもちろん、「ALBANIA」などは歌メロをそのままギターで口ずさんでいるかのよう。ハートフルな「CHAMPION」の黄昏たメロディーは、思わず何度も聴き入ってしまうほどです。ラストナンバーの「CAPISTRANO」などはその最たるもので、トニーらしいアプローチでエモーショナルにひたすら泣きまくる。ピッキング・ハーモニクスの使い方も、この頃からすでに秀逸です。速弾きをバシバシと繰り出すトニーも最高に魅力的ですが、1音1音をじっくりと聴かせるところもシビれますね〜。無駄に音数を費やさずとも、素晴らしいメロディーと世界観をつくり出せるわけですから。アルバム全体を通して、トニーの多彩な才能と音楽性を世に知らしめた1枚です。唯一、重箱の隅をつつくレベルでケチをつけるとしたら、日本盤のタスキに書いてあるキャッチコピーですかね。「トニーの絶妙なるネオクラシカルプレイが今、まさに火を噴く」…って、本作の内容とぜんぜん違〜う!前作までと間違えてない?









MADNESS  (1993年)


これは本当に、本当に、本当に、楽しい作品です。超強力なメロディーライン、最高のリズムワーク、そして恐ろしく変幻自在なギターワークは天下一品!さらに曲のバリエーションの引き出しの多さときたら、これまた輪をかけて凄いんです。ジャズのような、フュージョンのような、ブルースのような、ファンクのようなテイストを醸し出しながらも、根底にはハードロックの血が脈々と流れている。まるでオモチャ箱をひっくり返したようなアルバムです。なによりガチガチなジャズをしているわけでも、コテコテのブルースをしているわけでもなく、あくまでも“遊び”の範囲内に留めてくれるセンスが素晴らしい。おかげで僕らリスナー側も、肩肘を張らずに気軽に楽しめるってもんです。オープニングの「NAKED NANCY」からして、本当にセンスが良いもんなぁ。ファンキーな曲調の中に、テクニカルな速弾きをサラリとぶちかましてくれる。曲の構成がキッチリ・カッチリしているぶん、トリッキーな方向性ばかりに偏り過ぎることもなく、驚くほどキャッチーな仕上がりになっています。このバランス感覚の良さは、他のプレイヤーにはなかなか真似できないでしょうね。そんな「NAKED NANCY」でイケイケ100%に攻めてきたのも束の間、続く「PERUVIAN POWER LAYBACK」でシリアスな曲調にバトンタッチするコントラストも絶妙です。ギターのサステインの効かせ方といい、SEとの絡ませ方といい、なんと計算され尽くした曲なのだろう…。グレン・ソーベルのどっしりとした、それでいてグルーブ感たっぷりのドラムスに支えられ、シンプルなギターのリフが冴えること冴えること。タメの効いたソロプレイにもシビれましたよ。そうかと思えば「ALBERT'S FAT SISTER」にて、今度はブラスセクションを大々的にフィーチャーするという新しい試みにチャレンジ。競演相手はサクソフォン奏者のブランフォード・マルサリスって…大物だぁ〜!2人とも気持ちよ〜く絡んで、思う存分に弾き(吹き)まくってますよ。中盤の長〜いソロなんて、お互いの個性が滲み出てますもん。こんなにフィーリングたっぷりに弾けたら、プレイするのが本当に楽しくて仕方ないだろうな〜。

それは「RESTAURANT AT THE END OF UNIVERSE」でも、嫌というほど痛感させられました。ギターのタッチひとつとっても、生粋の職人芸。強弱のつけ方がハンパじゃなく上手い。曲の進行とともに、音色とフレージングが冴え渡っていきます。それこそ後半は最高潮。右トラックと左トラックで、怒涛のようなギターソロ合戦が勃発します。右トラックのトニーと相対するギタリストは、なんと彼が当時に付き合っていたカノジョだとか…。おいおい、どういうカップルだよ!しかもそのカノジョ、テクニックといいフィーリングといい、決してトニーに負けてない。2人とも音階が洪水のように溢れ出てくるのか、次から次へとフレージングの雨アラレと化してます。凡人の僕からすれば、メチャクチャ羨ましい!そんなトニーの充実ぶりを象徴するかのように、本作はノリノリな曲が目白押しです。「REALM OF THE FLYING MONKEYS」「CONFRONTATION WITH THE ELECTRIC BEES」は、またもやファンキーでゴキゲン。双方とも中盤以降の展開がスッ飛んでいて大好きですよ。適度にキャッチー且つアクロバティックなフレーズが、あれよあれよという間に波状攻撃を仕掛けてくるのですから。そうかと思えば「HOUSES IN MOTION」の情感たっぷりのメロディーが、これまたグッとくるんですよ。ギターをエモーショナルに歌わせながら、徐々にドラマチックな展開に引き込んでいくあたりは流石。聴けば聴くほど癖になる、スルメ曲の典型です。さらにメタルインストの真骨頂ともいえる「MUFFIN BANDITS」に至っては、パワフルなリフとメロディーで押して押して押しまくるトルク感がたまらない。アルバムの序盤から終盤まで、本当に楽曲の種類が豊かなだなぁ〜。じつはそれって、凄く勇気がいることでもあったんです。当時のトニーはマルチ路線に方向転換したことで、初期の2作品で掴んだネオクラファンを失いつつありましたので。そこでまたもやネオクラでない本作を発表するとなると、ますますファンを失いかねない。実際、セールス的にも芳しくなかったのだそうな…。本作のラストにネオクラ全開のスピートチューン「RAT'S WITH WINGS」が収録されているのも、そのあたりの複雑な心境が影を落としているのかもしれません。ここ2作品で、唯一にして随一ともいえるほどメタクソに弾きまくっている。アルバムの雰囲気を、最後の最後で叩き壊すかのようなヤケッパチぶりは清々しいくらいですよ。モーレツな勢いで、とにかく攻めて攻めて攻めまくる!僕はこういうノリも好きだなー。いずれにせよ彼のキャリアの中で、もっとも実験性に富んだアルバムであることは間違いなさそう。それになんといっても、ギターサウンドが凄くいいっ!音抜けの良さは、全作品中でピカイチかも。









PREMONITION  (1994年)


ファンの間で3番目に支持率の高い作品かもしれません。なんせ久々となる、ネオクラ路線への原点回帰ですよ。初期2作品のノリを切望された方にとっては大願成就。本作に収められた名曲「THE VIOLIN SONG」に、すべての鬱憤を晴らしてもらったことでしょう。それに加えて、ここ数作品で培った幅広い音楽性までもがフィードバックされている。ジャズ、フュージョン、ブルースなどの要素も健在です。早い話が「良いとこどり」なんですよ。しかも初期の頃とは、ソングライティングの質がまるで違いますからね。たとえば前出の「THE VIOLIN SONG」は初期作品に通じるネオクラ調ですが、メロディーの説得力やスケールの大きさは昔の比ではありません。テクニックといい、ドラマチックな展開といい、すべてにおいてエクセレント。そこにイェンス・ヨハンソンとのスーパーバトルがくるのだから、涙・涙に聴くしかないでしょう。この1曲のためにアルバムを購入してもいいくらいです。もちろん他にも素晴らしい名曲が揃っているので、最後までじっくりと聴かれることを切に願うばかり。速弾きのギターがギンギンの疾走チューン「GILA MONSTER」なんて、この上なく分かりやすい曲ですよ。主題となるメロディーは凄く覚えやすいし、とにかく最初から最後までフルスロットル!もうやめとけ…と言いたくなるほど熱い(本当はやめてほしくないけど)。ドドーッと始まって、ダダーッと進んで、ガガーッと弾いて弾いて弾きまくる。ギターキッズならガッツポーズ確実ですよ。こんなにバカスカとギターを弾くトニーは、この頃の作品では珍しいくらいですから。ディーン・カストロノヴォのドラムスも、ドタマから突っ込んじゃってますね。

それに「TOWER OF LONDON」が、キャッチーで格好いいなぁ〜。メロディーが一発でアタマに残りますもんね。躍動感のあるリズムとリフで「オッ」と思わせておいて、フレージングが入ってきた途端に「オオッ」となり、お得意のスウィープとタッピングの併せ技で「オオオオ〜ッ!!」となる。その一連の流れがスムーズで印象的なんです。やっぱり並みのセンスじゃないよ、この人。そういえば「INFLECTION」などはさまざまな要素を網羅しているのに、曲の構成がぜんぜんギクシャクしていないんですよね。まるでジャズのようにスリリングで、プログレ的な起伏があって、イェンス・ヨハンソンとのユニゾンバトルまで放り込まれている。普通、こんなに詰め込んだら、曲がメチャクチャになりますって。なんでこんなに格好いい曲に仕上げられるんだろう…。難しいことをサラリと聴かせるところが、トニー・マカパインというギタリストの凄さですね。個人的には静寂の中でしっとりとした旋律美を奏でる「RUSALKA」や、後半のソロでガツーンとくる「MAESTRO DI CAPPELLA」も聴いていただきたいところ。そうそう、ラストナンバーの「WINTER IN OSAKA」も要チェックですよ。ややヘヴィーでダークなリフもさることながら、フレージングのインパクトがとにかく強烈ですから。ギターを弾いているというより、口ずさんでいるといったほうが正解かもしれません。こういう曲には、ワウペダルの音色が本当にマッチしますね〜。秀作揃いの作品を締めるのにふさわしい、ドラマチックなナンバーです。名曲に始まり名曲に終わる、ファン必聴の1枚といえるでしょう。こんなに素晴らしい作品を聴かないのは、もったいないっス。









EVOLUTION  (1995年)


アルバムのジャケットは正直、ダサいです。もっと良い写真はなかったんですかねぇ〜。グラサン姿といい、ネルシャツ姿といい、ちょっとビミョー。それに素人が撮ったみたいな画質だなぁ。ブートCD(海賊版)かと思った・・・・・・・・・・と見た目の第一印象は最悪でしたが、耳から入ってくる楽曲の第一印象は最高でした。「THE SAGE」のイントロが元気よく流れてきた瞬間に“やったぁ”と拳を握り締めましたよ。キラキラとしたキーボードがパラパラパラ〜っと景気よく奏でられたところに、シンプルで力強いリフが颯爽と乗ってくる。マイク・テラーナのドラムスも緩急があって、オカズと小技が効果的で気持ちいいですね。アルバムの一発目がここまでキャッチーでスカッとすると、ラストまで聴こうかなという気にさせてくれる。爽快なドライビングサウンド…というありがちな枕詞は、この曲のためにあるようなもんです。こりゃ〜中間部のフリーパートは、さぞかし速く弾きまくるだろうな〜とニヤニヤしていたら意外や意外。予想外にエモーショナルじゃないですか!いや、もちろんトニーだから、それなりに速弾きをして音数は稼いでますよ。でも決して速さやテクニックにばかり固執していない。明らかにメロディーや楽曲の構成のほうに心血が注がれてますもん。不自然なところがまるでないから、曲のアタマから最後までまったく軸がブレない。ただガムシャラに弾きまくるだけでは能がないよ…といわんばかりですね〜。一流のテクニシャンであるだけでなく、センスも素晴らしい。このあたりの絶妙なバランス感覚が、ギタリストというよりも「生粋の作曲家」であることを強く認識させられるわけですよ、トニー・マカパインというお方には。

特に「FUTURISM」はその極致ですよ。ギターで主旋律を奏でていながら、アンサンブルの中にしっかりと溶け込んでいる。数々の技巧が凝らされているにも関わらず、楽曲の雰囲気をまったく損ねていません。それになによりも爽やかでノリがいいですね。リズムワークの心地よさは、作品中で間違いなくナンバーワン。ギターヒーローが手がけたフュージョン風のナンバーでは、その到達点ともいえるクオリティに達しているのではないでしょうか。速弾きよりもフィーリング、テクニックよりもメロディーが重要視されている。それはハードロック寄りで疾走感のある「POWERFIELD」や、イブシ銀ともいえる「TIMETABLE」「PLASTIC PEOPLE」でも顕著に現れている部分ですね。特に「POWERFIELD」は従来にありがちなスピードチューンと違い、主題の部分で特に目立った速弾きをしていない。そのぶんメロディーのインパクトが強く、聴き手のアタマに一発でインップットされるほど印象的なわけです。個人的には終盤にくる「SINFONIA」を、ぜひとも聴いてほしいですね。何を隠そう、僕はブリッジミュートで刻まれるアルペジオが大好きなんですよ。しかもサビのフレーズといい、後半のソロといい、申し分のない出来映え。ちょっぴりダークネスな序盤から、キャッチーな展開にもっていくところがニクいですね。とにかく全体的に音数を減らしながら、フレージングや構成力で勝負しようという意図がビシバシと伝わってくるアルバムです。初期の路線が強く意識されていた前作とは対照的に、露骨なネオクラ要素を前面に立てていません。トニーが本当にやりたかったのは、こういうシンプルなスタイルなのかもしれませんね。









VIOLENT MACHINE  (1996年)
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このアルバムには、一切の迷いがありません。ファンの求めるネオクラをするべきか?それとも新しい方向性を追求すべきなのか?1990年代の作品に少なからず混在していた苦悩から、ついに解放される瞬間がやってきたのです。ギタープレイといいソングライティングといい、なんとまぁ肩の力の抜けていること。トニーの習得してきた幅広い音楽性が、渾然一体となって調和している。試しに本作のキラーチューンともいうべき「UNFORTUNATE LAZARUS」を聴いてみてください。テクニカルで攻撃的なフレーズが満載の疾走チューンでありながら、ゴキゲンなまでのフュージョン風ナンバーに仕上がっているでしょう。何気にバカスカと弾きまくっているし、カッ飛ばし度が☆☆☆☆☆クラスの速球系にも関わらず、品位の高い曲に仕上がっているから凄い!細かいメロディーやテクニックのひとつをとっても、すべてが楽曲に溶け込んでいるから違和感がないんです。そこには「なにか特別なことをしてやろう」とか「ファンの期待に無理やりにでも応えてやろう」なんて鼻息の荒い気負いは、微塵もありません。本作ではトニー自身の信じる音楽性が素直に、ありのままに表現されている。まさにオーガニック、これぞ自然栽培のトニーです。思えばオープニングのタイトルナンバー「VIOLENT MACHINE」からして、いい意味で脱力できていますね。いきなり派手にドカーンとくるのでなく、ジリジリと少しずつ緊張感を高めていくような構成になっている。その絶妙なまでの“タメ”がスリルとなって、作品に対する期待値をグーンと高めてくれるわけです。1曲目にこのような曲を持ってきてくれるのは、ありがたいなぁ〜。

あとは最後まで勢いよくダーッと聴けてしまう。ちょっとメロウで技アリな「CIRCUS DU SOLEIL」、ファンキーでノリノリな「SHOE SHINE CYBER BOY」など、バラエティー豊かな楽曲群が飽きさせません。ショパンのエチュードも、いつも通りの佳作ですね。そして今回は久々の試みとして、ヴォーカル入りのナンバーが幾つか入っている。LAのローカルバンドでシンガーを務めるジェローム・ジョーンズなる人物を迎えての歌モノナンバーですが、これがなかなかオツな仕上がりなんですよ。ジェロームの歌唱力についてはあえてノーコメント(汗)とさせていただきますが、曲の出来映えは決して悪くない。その中でも「LITTLE GEM」のポップな歌メロがお気に入りです。中盤のギターソロも格好いいですよ。ただ「OUT OF TOUCH」では歌の下手クソさが思いっきり露呈して…あ、とうとう言っちゃった(汗)。あとはなんといっても「SOPHISTICATED DOMINATION」「ARS NOVA」の中盤以降のギタープレイを聴いてほしい。これが素晴らしいのなんのって…。ただひらすらに「上手いなぁ〜」「凄いなぁ〜」と口をパクパクさせられる。ただし「SOPHISTICATED〜」の中間部に、ミュートをし損ねたミストーンがモロに突き刺さっているのはちょっと不思議でした。編集作業中に誰も気づかなかったのかなぁ〜?けっこう目立つのに…。とにもかくにも、流れるような滑らかなトーンは鳥肌モンですよ。耳に残りやすいメロディーセンスも加えると、やっぱり天才だぁ〜!それでいて円熟味さえあるんだもんなぁ。スーパーテクニックに「ゆとり」さえも感じさせる。それほどの凄みと充実ぶりが伝わる内容ですよ。アルバム「FREEDOM TO FLY」から始まった苦悩と模索の果てに、彼自身の理想像をようやく確立した作品といえるかもしれません。初期2作品の呪縛から完全に解き放たれた、これぞ快作です。

※本作に収録されているヴォーカル入りのナンバーについて、管理人は当初トニー本人による歌唱であるとの間違った情報を記述しておりましたが、それが誤りであることをマテ様より指摘していただいたため、ジェローム・ジョーンズによる歌唱であると訂正させていただきました。事実と異なる情報を発信してしまったことを皆様にお詫びさせていただき、マテ様に心より御礼申し上げます。(2017.1.14)









LIVE INSANITY  (1997年)


トニーのソロ名義で初となる、記念すべき公式ライヴアルバムです。国内の配給元は、メタル野郎に御用達のビクター。もちろんメジャー、大手です。しかしその内容は、海賊版に毛が生えたようなもん。いくらなんでもサウンド・プロダクションが悪すぎますよ。アマチュアのライヴ音源と大差のない音質だもんな〜。トニーが何も知らないまま企画・制作されたというのも、あながち嘘ではないのかもしれません。本人が関与していれば、もっとマシなレコーディングなりミキシングをしたでしょうから。…とはいえ、ドラムやベースの音はそんなに悪くない。ピアノやキーボードの音なんて、よく録れているほうだと思う(単にマイクに拾われやすい周波数帯なだけ?)。問題はやっぱり主役。ギターのトーンが、薄っぺたのペ〜ラペラ。ダシを入れ忘れた味噌汁みたいに、味わいもなければ奥行きもありません。特にリアピックアップで弾いているときの音質が、平面的でジャ〜リジャリ。音も潰れちゃってるよぉ〜(涙)。この音質のせいで、とにかくチープに感じますね。トニーのギタープレイが、エラく下手クソに聴こえてしまう。フレーズによっては「トニーって、オイラの技量と大差がないかも」な〜んて、思わず勘違いしちゃうじゃないかぁ〜(ホントにすんごい勘違いです!大変に申し訳ありません!)。でもなぁ、リズムワークが乱れていたり、ピッチが怪しかったりと、本当にあまり上手くなかったりして…。近年のライヴ映像を見ても、危なっかしい部分が多いもんなぁ〜。原曲の「ウヒョ〜!」な部分を、テキトーにごまかして弾いているようなところも多々ありますね。サポートの女性ギタリストのほうが、よほどキチンと弾けていたりする。

さて肝心の内容に関しては、10分超に及ぶ「BOX OFFICE POISON/PIANO SOLO」が最大のハイライト。高速ピッキングのテクニカルなソロから「BOX OFFICE POISON」を経由して、いよいよピアノソロの独壇場!トニーの十八番ともいえるショパンの練習曲が、これでもかとばかりに冴えわたります。それにしても今回は、セットリストが渋いなぁ。「BOX OFFICE〜」はもちろん「SECRED WONDER」「RUSALKA」「CAROLINA BLUE」と通好みの曲ばかり。随所で“技アリ”なプレイを確認できるのは喜ばしいものの、欲を言えばもう少しメジャーな曲がほしかった。名作であるセカンドアルバムからの曲が多いのは嬉しいところですが、肝心の“あの曲”が入っていない。それにトニーがキーボードを弾いているときは、ギターパートが不在になりますからね。アンサンブルが手薄になるので、チョイとばかり拍子抜けをするかもしれません。たとえば「THE SAGE」のオープニングなどはその典型例。ドライブ感あふれるギターのリフがないよぉ〜!音が寂しいよぉ〜!スカスカに聴こえるよぉ〜!原曲とアレンジの違うところがライヴの醍醐味とはいえ、原曲のカッチョいい部分も残してほしい…と願うのもファン心理。そういう意味では、少し違和感があるのは事実です。違和感があるといえば「LIVE INSANITY」というタイトルもそうですね。ファーストアルバムの「EDGE OF INSANITY」を連想させる題名の割には、その作品からの曲が「THE TAKER」しか入っていない。初期の名曲をライヴ盤で聴くぞぉ…と期待して買ったファンがいたらお気の毒です。この整合性のなさも、本人が関与していないからでしょうね。









CHROMATICITY  (2001年)


ウオォーーーーーーーっ!キタキタキターーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!

一発目の「CHRISTMAS ISLAND」で、もうお腹が一杯です。ありがとうございました。2000年の一桁台で最初の、そして唯一となったソロ作品は、オープニングから容赦がありません。荘厳なSEがドラマチックな展開を予感させ、疾走感あふれるリフに、キャッチーなメロディーときて、お得意のギターvsキーボードで畳み掛けてくる。初期の作品に通じる弾きっぷりですよ。それでいながら、どことなくお洒落な曲調にピタリと合っているから恐ろしい。アグレッシブな要素が目白押しなのに、リゾートっぽい雰囲気も醸し出しているから凄い。珊瑚礁で知られるクリスマス島がタイトルにされているのも、思わず納得です。トニーの作品は秀逸なオープニングナンバーで始まることが多いけれど、その中でも屈指の出来映えといえるでしょうね。いきなりのキラーチューンに感謝感激。あまりにも幸先よすぎるスタートです。それに今回はギターのトーンが凄くいい!歪ませているのにクリーン、澄んでいるようでパワフル。なんと温かみのあるトーンなのだろう…。ピッキングやタッチの違いがもたらす音色の変化を、あますところなく聴き取れるほど極上なんです。しかも音のカドが取れているので、なんともいえない独特の浮遊感さえも醸し出していますね。メロウでエモーショナルなプレイが存分に堪能できる「CITY BENEATH THE SEA」「ISIS」「PRINCE OF LIGHT」といったナンバーに、この音色が映えること映えること。特にアクセントの効きまくった「PRINCE OF LIGHT」の中間部などは、まさにドンズバ!独特の“間”を生かした即興的なフレージングに、フワフワとしたトーンがじつに相性抜群なのですよ。

その浮遊感が一段と引き立っているのが「AVENGER」です。ユニゾン合戦するキーボードに負けないほどの、やさしいタッチで奏でられている。この繊細なトーンでテクニカルなプレイを自在に使いこなすのだから、本当に職人芸だなぁ〜。匠のフィンガリングとあいまって、プログレのようなサウンドにすら聴こえてくる。その典型例が、ダークでミステリアスなタイトルナンバー「CHROMATICITY」ですね。やや変則的ながら軽快なリズムが心地いいナンバーで、最初から最後まで一貫してプログレテイスト。何気にかなり(…というか相当に)テクニカルなことをやってます。「DIGITALIS DESTRUCTI」における中間部のソロにも、似たような雰囲気を感じとれると思います。そしてきわめつけの問題作(?)といえるのが、終盤にくる「EYE OF THE SOUL」でしょう。ここまで大胆にプログレ的なアプローチが試みられたのは、過去のソロ作品では記憶にありません。まさにトニー版のエマーソン・レイク&パーマーといっても過言ではない。モロに「タルカス」や「恐怖の頭脳改革」へのオマージュと化してます。しかもしかも、中盤あたりからの展開と曲調がスゲーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー格好いい!序盤のちょっと気だるい雰囲気とは、ぜんぜん違うじゃないかぁ〜!後半の怒涛のソロなんて、あまりにもドラマチック過ぎるよぉ〜。僕にとっては最高の名曲です。ぶっっっっっっっっっっっちぎりの1番!ちなみに本作における陰のMVPは、ドラムスのスティーヴ・スミスに決定。タメの効いた軽快なリズムと、スネアの音がメチャクチャ気持ちいい!他のどのドラマーよりも、相性が良いと思うなぁ…。









TONY MACALPINE  (2011年)


まさにサプライズですよ。キャリア26年目のベテランが、最高にアグレッシブな作品を出してきた。すっかりオジサマになったのかと思いきや、本人にそのつもりは更々ないようです。齢(よわい)50歳にして、完全にギター小僧と化してます。特にフルピッキングの速弾きが、そりゃもう速いこと速いこと…。オープニングの「SERPENS CAUDA」の時点で、すでにリミッターがブッ飛んでますからね〜。トニーにしては珍しく「前のめり」になって弾いてますね。ミドルテンポのOLUDENIZにしても、マッタリとした印象の「DREAM MECHANISM」にしても、中間部のソロはやっぱり速い。こんなにシャカリキに弾きまくるトニーは、いつ以来ですかね?スピードだけなら、初期の2作品を超えているかもしれません。ただし一聴して“オッシャ〜!”と盛り上がれる昔の曲とは違い、今回の楽曲群は一筋縄ではいきません。どの曲もいつも以上にイントロが地味ですからね〜。最初はいまいちパッとしないし、とっつきにくそうな雰囲気がある。僕の場合は、ヘヴィーサウンドがちょっと苦手でした。アルバムの冒頭から“ブォ〜ン”ブォ〜ン“って、冗談でしょ?しかもそれが1曲やそこらじゃない。え?いまさらグランジ風?古くね?勘弁してよ…と。危うく数秒で駄作のレッテルを貼ってしまうところでした。ゴメンよ、トニー。でもこれが完全にトラップなんです。パッとしないのは、最初だけ。何度も聴くたびに深みが増して、スルメのごとく楽しめる。トニーがセルフタイトルにしたのも納得の充実度です。

その中でも特に「PYROKINESIS」には一杯食わされましたよ。いきなりのヘヴィーサウンドにゲンナリさせられたかと思いきや、主旋律に入るとガラッとよくなるんだもんなぁ。ツインギターのハーモニーと、ダブルトラックの雨アラレ。その旋律がなんともサイキック調でしてね。「PYROKINESIS=超能力/念火」というタイトルが、妙にしっくりくるんです。ギターもギンギンに弾きまくってますよ。それに「SUMMER PALACE」「ANGEL OF TWILIGHT」にも騙されましたね。序盤は相変わらず地味だけれど、中盤からのフレージングが美しいなんてもんじゃない。曲の構成も完璧ですってば。イントロがピンとこなかったといえば「10 SECONDS TO MERCURY」「BLUE MASERATI」も同様ですね。今でこそ楽しく聴いているけれど、最初はこれっぽっちも良い曲だとは思わなかったなぁ〜。ですから皆さん、どの曲もイントロだけ我慢して聴いてやってください。スキップしたい衝動をこらえて粘り強く聴けば、素晴らしい出会いと発見に恵まれるはずです。その曲自体を気に入ることができれば、最初は気に入らなかったイントロにも愛着が湧くってもんです。僕なんてショッパナから安心して聴けたのは「THE DEDICATION」くらいでしたよ。これ、2ndアルバムが好きな人なら思わずニヤリ。「PORCERAIN DOLL」を彷彿とさせる癒しの曲ですよぉ、懐かしいなぁ〜。いずれにせよ僕にとっては、このアルバムこそがトニーの最高傑作。名盤の誉れ高き初期の2作品よりもお気に入りです。









CONCRETE GARDENS  (2015年)


このヘヴィネス、本当にトニー・マカパイン?いや、前作のヘヴィー路線を踏襲してくることは、なんとなく予想していました。でも、ここまで重爆系のサウンドにしてくるとは、夢にも思いませんでした。これまでのトニーは7弦や8弦ギターで低い音を用いることは多々あれど、音色自体は決してヘヴィネスではありませんでしたので。それが今回はオープニングナンバーの「EXHIBITIONIST BLVD.」からして、凄まじいばかりの破壊力。過去のトニーにないソリッドで力強いトーンに、ただド肝を抜かれるばかりです。さらに輪をかけて重苦しい曲調の「THE KING'S RHAPSODY」の中盤に差し掛かる頃には、彼がヘヴィーサウンドを完全に手懐けたことを確信しました。やっぱり天才すぎますよ、このお方。前作もたしかに同路線の素晴らしい内容でしたが、バッキングにおけるギターサウンドのエッジが(いつもながら)立っておらず、ヘヴィネスに徹しきれていなかった。加えてソロプレイが前のめりに突っ込みすぎている箇所も散見され、地に足のついていないフワフワとした印象が拭えなかったことも、作品全体の重量感を削ぐ要因になっていたと思います。ところが今作ではギターサウンドの輪郭クッキリ、エッジがシャキ――っ!ザクザクと刻むリフがたまりません。前作よりも精度を増した高速プレイの数々も、ヘヴィーサウンドにドンピシャですよ。正確なプレイが良い意味で無機質なフィーリングを醸し出し、重厚で硬質なサウンドに物凄くしっくりきている。アキレス・プリースターの太鼓の暴れっぷりも、最大限に貢献してくれていると思います。3人のベーシストも含め、リズム隊のチョイスは相変わらず申し分ありません。いつもながら良い人選をするなぁ…。

そして本作の最大の特徴は、おそらく過去に例がないほど「聴き込み」を要することでしょう。ネオクラシカルな速弾きでブイブイいわせる爆走チューンもなければ、スポーツ番組のダイジェストシーンに使われそうなキャッチーな楽曲もありません。イントロから鈍重な楽曲が多いので、根気よく聴いてもらえるかどうかが本作の評価を二分する分水嶺。「Epic」などは、その最たるものでしょうね。これを聴いて一発でピーンとくるよりも、ルーズでスローリーな展開に嫌気がさして早々にスキップされてしまう可能性が高い。「NAPOLEON'S PUPPET」「SIERRA MORENA」も、同様の結末を辿りそうな気配を感じます。途中から凄くおいしい展開になるんだけどな〜。序盤が地味に聴こえる曲ほど、中盤以降に格好よくなる…というトニー作品の法則性をインプットされずに聴かれた場合、あまり聴き込まれないまま駄作の烙印を押されてしまいそうで不安です。逆に最初から「オオッ」とくるのは、フュージョンテイストあふれる「POISON COOKIES」か、ジェフ・ルーミスとユニゾンする「SQUARE CIRCLES」あたりが有力。ジェフの音は凄いですよ。登場して最初の「クワァ――――ァァァン…」と咆哮するベント一発で、トニーの存在を消しちゃうんだから。右トラックから聴こえるトニーのソロを、完全にホスト役へと押しのけるほどです。また古くからのファンの方なら、終盤の「RED GIANT」以降のナンバーにグッとくるかもしれません。デビュー当時のテイストが色濃く反映されている。メロウでドラマチックな「CONFESSIONS OF A MEDIEVAL MONUMENT」「CONCRETE GARDENS」にはニヤニヤしっぱなしでしたよ。ファーストアルバムの「AGRIONIA」「EMPIRE IN THE SKY」「EDGE OF INSANITY」を彷彿とさせながらも、トニーの現在進行形のスキルと感性を吹き込んでくれたのですから。それになによりも嬉しいのが、音質がズバ抜けて高いことです。これほどヘヴィネスなサウンドで、すべての音を破綻させずに綺麗に聴かせるマスタリングの技量はハンパじゃない!こんなに凄腕のエンジニアを雇ってしまって、トニーの懐事情は大丈夫か…と下世話な心配をしていたら、彼のお財布でなく本当の意味で懐が危なかった。ここにきて、まさかの大病発覚です。夢の単独来日公演が立ち消えてしまったのは残念ですが、一刻も早い回復と復帰を切に願います。


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