隠れた大傑作!Amberian Dawn「Circus Black」


 


このアルバムは凄いですよ!何が凄いかって、ギターとキーボードが大々的にフィーチャーされているんですよ!えっ?そんなの珍しくない?ストラトヴァリウスでも聴いとけって?たしかにパワーメタルの分野だと珍しいわけではありませんよね。
 でも女性シンガーを擁するシンフォニックメタルでは希有な存在です。この手のバンドは歌謡曲に聴こえる曲も多いし、ソロのない曲もあるじゃないですか。ギター小僧的にはチト寂しい。もう少しソロを弾いてほしいな…というのが正直なところです。

だからこそアンベリアン・ドーンの「Circus Black」には度肝を抜かれました。女性シンガーの美声とテクニカルなソロプレイの応酬は聴き応えが満点!デビュー当時よりも歌唱力・演奏力・構成力のすべてが向上しています。初期の彼らを「無垢な少女」とするならば、現在の彼らは強大な理力と魔性を秘めた「魔女」。魅惑の美しさとフォースを備えています。オープニングを飾る@から神秘的なミステリアス・ワールドが幕を開け、名刺代わりとばかりにギターvsキーボードの速弾きプレイが炸裂!早くも鬼気迫る壮絶な旋律美を披露します。透き通った歌声と、心に残るメロディーも最高。疾走パートの使い方にメリハリがあっていいですね。大仰なクワイア、そしてシンフォニックなアレンジとあいまって、こりゃ〜期待に胸を膨らませずにはいられません。

その期待と興奮を「確信」に変えてくれたのがA。バンドの紅一点である看板娘のヘイディ・パーヴィアイネン嬢と、ストラトヴァリウスのティモ・コティペルトがデュエットで共演!これぞシングルカット曲の理想形…といえるキャッチーでカッチョいいナンバーに、2人の儚げなボイスがハマリ過ぎですってば。イェンス・ヨハンソンばりにギターフレーズしているキーボードソロも含め、クサメタル・フリークならガッツポーズすること確実です。このシングル曲「Cold Kiss」に限らず、今回のアルバムは思わずメロディーを口ずさんでしまいたくなる曲ばかり。派手な演奏なら前作「End of Eden」でも十分過ぎる内容でしたが、楽曲のインパクトや作品全体のコンセプトワークは本作のほうが一段と優れています。わずか1年と数ヵ月でこの進歩…ますます将来が楽しみなバンドです。

続くBでは前作と同様にイェンス・ヨハンソンがゲスト参加。透明感のある中に哀愁臭さが漂う雰囲気はこれぞ北欧!大河ドラマのようなダイナミズムにあふれたアレンジも見逃せません。ある意味でプログレ的ともいえる起伏に富んだ展開に思わずニヤリ。それでもギターとキーボードで見せ場をつくってくれるところが嬉しいですね。クサ〜い泣きのギターから、ツインギターとキーボードによる奥行きのある「キメ」のフレーズ、そしてイェンス熟練のキーボードになだれ込む展開はハンパなく格好いいですよ。ツボに入ればこの曲こそが「最高傑作」だと感じる人がいるかもしれない。わずか4分24秒に壮大なドラマを凝縮した名曲です。
 この強烈な3曲で早くもノックアウト寸前!そろそろ一息つきたいところですが、そう簡単に休ませてくれないところが憎い。クラシカルな前奏から始まるCは優雅でドラマチック。まるでミュージカルの曲を聴いているかのようです。オペラチックなコーラスワークと、ヘイディ嬢の切なげな美声とがあいまって、スケール感の大きな楽曲に仕上がってますね。この曲調ではソロプレイが控え目になる展開も予想されましたが、そう一筋縄にいかないのがこのバンド。ギターソロも気持ちよ〜く弾き倒されております。

ただしシンフォニック系のメタル作品は中盤以降にダレる傾向があるので、そろそろ捨て曲がくる頃だろ〜なんて斜に構えていたら大間違い!ネオクラ野郎の誰もが「キターーーーーーーーーーーーー!!!」と拍手をしたくなるほどの爽快なアルペジオとともに、前半戦のハイライトともいえるスピードチューンのDに突入します。ドラムスが「タンタンタンタン」「スパパパパーン」とまくし立てる疾走ビートに乗って、ヘイディ嬢の歌声は天を駆け抜けるかのような美しさ!そこに「これぞネオクラ」な高速ギターソロがガツーンとくるのだから、文句なしのキラーチューンといえるでしょう!アドレナリンの分泌MAXでヘドバン必至です。
 それにしてもヘイッキ・サーリは、本当に気持ちのいいドラミングをしますね。マシンガンのような手数と抑揚感あふれるグルーブでガンガン畳み掛けてくるし、オカズの入れ方がとにかく上手い!ロールなんてメチャクチャ速いもんなぁ〜。まるでブルース・リーの体技に似たキレのよさ。軽快な音色がバンドのキャラにぴったりなので、これからの陰のキーマンは彼かもしれません。あちこちのバンドから引っ張りダコのようですが、アンベリアン・ドーンではパーマネントに活動してほしいですね。

さてここからは早くも後半戦。高速チューンの後にはシンミリとした曲がくる…という予想を覆し、ドラマチックなEで第二幕がスタート。この曲の勇壮な雰囲気、鉄壁の構築美、クラシカルなクサメロは、初期のラプソディー・オブ・ファイアそのもの。その記念すべきデビュー作「Legendary Tales」に収録されていても不思議ではありません。それでもボーカルが入るとアンベリアン・ドーン以外の何者でもなくなるところは、ヘイディ嬢の卓越した個性があってこそ。動から静へ、静から動へ…という変化を巧みに駆使して盛り上げていく手法は、メタルフリークの悦ぶツボを知り尽くしていますね。キメのフレーズ、スウィープ入りのギターワーク、フラッシーなキーボードソロを叩き込む様式美で、ネオクラ野郎の悦ぶツボも重点爆撃。やっぱりこのバンドは只者ではありません。

ここで一転してマイナー調のギターフレーズとともにFへ。ボーカルパートの第一声はまたもや聞き覚えのある男性ボイス。ティモ・コティペルト再臨…かと思いきや、歌っているのは元ドリームテイルのニルズ・ノルドリングという人でした。僕は初めて聴くシンガーでしたが、どことなくティモの歌い方に似てるんですよ(冷静に聴くと別人の声なんですけどね…)。その歌唱でAメロとBメロのすべてを歌うもんだから、まるでストラトヴァリウスの曲にヘイディ嬢がゲスト参加したかのような珍現象。最初のイントロだけを聴くと「なんだかパッとしない曲だなぁ」というマイナスな印象を抱きますが、切なげな曲調からキャッチーなサビへと盛り上がる展開は本当に素晴らしいですよ。そういえばドリームテイル自体も、ストラトヴァリウスの音楽性に似ていたような…。別のシンガーによる「Ocean's Heart」というアルバムだけ聴いたことがあります。

この意外な(仮想)ストラトヴァリウス攻撃に続くGは、歌のないインストナンバー。正直、インストにしては間が延び過ぎてしまって少々ダルいですね。ボーカルラインを意識したギターフレーズがときおり顔を出すのですが、これがどことなくスーパーの食料品売り場に流れている「ギターインスト風のイージーリスニング」のように聴こえてしまう。これならギターやキーボードをもっと派手に弾きまくるか、デビューアルバムの日本盤ボーナストラック曲「Dreamchaser」のような小気味いい曲展開にすべきだったと思います。もちろん決して悪い曲ではありませんが、凄く格好いい部分もあるだけにもったいないですね。他の曲の完成度が高過ぎるぶん、些細なことでも気になるだけかもしれませんが。
 そんなこんなでヘイディ嬢の美声がすっかり恋しくなってきたところに、極上のメゾソプラノを存分に聴かせてくれるHは圧巻!白く霞んだ空に、凍えるような風、厳しい大地を想起させる荘厳な幻想世界に、悲哀あふれる歌声が心の琴線に触れまくりです。さっきのインストはこの曲を際立たせるための踏み台?歌が聴きたくて我慢に我慢を重ねているところに一気にぶちまけられる…という、ある種のカタルシスにも似た興奮を覚える佳作。サビの後の隙間感とギターソロのラストに若干の練り込み不足を感じますが、それでもヘイディ嬢の歌声のおかげで5割増しのクオリティーになってしまうところは流石です。

そんな美声に酔いしれていたのも束の間、雷鳴の如しフレージングとともに最終章へ。メタル作品のラストナンバーはこうあるべきだ…といわんばかりのIで、ボルテージは最高潮へと到達します。ヘドバン確実の疾走パートに、煌びやかなシンセ、説得力のある歌メロが三位一体となり、荘厳なコーラスに続くキャッチーなサビで昇天寸前!とどめはギターvsキーボードのユニゾンプレイか…という予想に反し、最後の最後でギターvsギターのツインリード対決!ただただ脱帽です、恐れ入りました。
 これで全10曲の幻想旅行は終焉の地へ。最初から最後まで怒涛の勢いで駆け抜けていきます。大作志向に走りがちな同系バンドが多い中、本作ではすべての曲が3〜5分。ダラダラと長引かせないぶん楽曲自体が濃密で、聴き手側の集中力も最後まで持続します。そういう意味では同じフィンランド出身で大成功を収めたナイト・ウィッシュに通じるものがありますが、音楽性の方向はまるで別物。ナイト・ウィッシュが作品を重ねるごとにポピュラーな路線へと洗練されていくのに対し、アンベリアン・ドーンは愚直なまでにネオクラシカルメタル一直線。ヘイディ嬢の哀しげで切ないボイスは、ターヤ嬢やそのフォロワー達の歌唱とは明らかに異なる独特なもので、アグレッシヴなプレイの数々は他のフィメール系メタルバンドを圧倒するほどです。

その屋台骨を支える3人のギタリストは間違いなく一級品。高難度のフィンガリングを悠々と操り、カイ・ハンセンをして「凄まじいテクニシャン」と言わしめるカスペリ・ヘイッキネン。高精度のピッキングを武器に、新加入でありながらそのシュレッドぶりを存分に見せつけたキンモ・コルホネン。ギターのソロプレイに荒さがあるものの、キーボードとの二刀流でバンドを牽引するトゥオマス・セッパラ。デビュー当時よりもテクニックとアイデアの質が格段に進化しており、ネオクラ系に散見される「劣化版イングヴェイ」なギタリスト達とは一線を画する実力派軍団を形成しています。
 それにも増してバッキングの格好よさは惚れ惚れするほど。シンフォ系のバンドはギターのリフが単調になりがちですが、彼らは本当によく考えてアレンジしています。メロディー・メーカーであるトゥオマスの非凡な才能のなせる業でしょう。

いまや女性シンガーをフィーチャーしたメタルバンドは数あれど、その中でも唯一無二の個性を放ち始めたアンベリアン・ドーン。ナイトウィッシュやウィズイン・テンプテーションにない攻撃性を備えているので、彼ら以上にメタルフリークの支持を得る可能性を十二分に秘めています。ネオクラシカルメタル/シンフォニックメタル/パワーメタルからゴシックメタル、さらにNWOBHMを好む層にまで鮮烈にアピールできる隠れた大傑作。このような英気あふれるアーティストがローカルな市場規模で終わってしまうのであれば、メタル界にとっての甚大な損失であるといわざるを得ません。皆でこぞってアルバムを購入し、メジャーなバンドへと押し上げていこうではありませんか!大手ユニバーサルと契約した今こそ時は満ちたり。ぜひ来日公演も実現させましょう!


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▲ シングルカットされたAの「Cold Kiss」。目を瞑って顔を逸らしているときのヘイディ嬢が、妙に色っぽかったりして。
ゲスト参加したティモ・コティペルトの熱唱と名演ぶりからも、このバンドに対する期待値の高さが窺い知れますね。
ちなみにカスペリのギターはスティーブ・ヴァイ仕様の7弦UNIVERSE。それもマーブルカラーですよ〜懐かしい!



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